全てはここから始まった

私は免許を取ってすぐに、両親から車を買ってもらった。地元の国立大学に家から通うという条件付きだった。正確に言うと免許を取る前から自宅の庭に車が用意されていた。その車は日産のシルビアという車だった。
 

 

この写真は手放す前日に撮ったものである。全体的に傷が目立ち、ボディはボコボコになってしまっている。無理もないだろう。私は大学生活6年間、ずっとこの車に乗ってきたのだから。私は毎日このシルビアで片道40km弱の道のりを通学した。6年間で走行した距離は軽く10万kmを超えていたと思う。

 

初めはATだった

実はこのシルビア、ATだったのである。女性ワンオーナーの完全フルノーマル車だったものを買ってもらった。なぜ私はATを選んだのか、その理由は今考えると情けない限りだと思う。私は昔から車が大好きで、保育園児ぐらいの頃はミニカーに囲まれて寝るくらい好きだったらしい。中でもスポーツカーが好きで、見た目のカッコよさに強く惹かれていた。スポーツカーといえばMTだが、私が買ってもらったのはATである。これは間違えたのではなく明確な意思を持ってATを選んだのである。

 

MTはもう嫌だ

そんな私が免許を取りに教習所へ通い、路上での教習に入っていた頃、事件が起きた。私はその日路上の教習が2コマ連続である日だった。助手席に乗る教官は自分では選べず、ランダムに振り分けられる。偶然私の隣に座る教官は2コマとも同じ教官で、40代の女性教官だった。この教官がかなりの曲者で、女子生徒にはとても親切丁寧に教えてくれるが、生徒が男になると途端に厳しくヒステリックになるという噂だった。

 

私は嫌な気持ちを抱えたまま2時間の路上ドライブに出た。噂の女性教官は噂通りピーピーうるさかった。制限速度を1km/hでもオーバーすると「制限速度何km/hだと思ってるの?」とキレ出す模様。私も最初の内は耐えていたが、ピーピーやかましいのでだんだんと集中力を切らし、途中から操作ミスを連発した。

 

左足は悲鳴を上げていた

致命的だったのは信号での右折である。今では何ともないが、仮免許ぐらいだとMTでの発進は苦手意識があるものだ。ましてや信号での右折なんて対向車の隙間を縫うように発進して曲がらないといけないもんだから、難易度はなかなか高い。私の記憶ではそれまでエンストなんてほとんどしたことがなかった。だがその日は同じ信号で2度もエンストしてしまった。原因は間違いなく助手席の教官と疲労しきった「左足」のせいである。なぜか教習所では信号待ちなどで停止しているときは、ギヤを1速に入れておくように指示される。おそらく信号が青になったときすぐにスタートできるようにするためだと思う。だがこれが良くない。信号が青になるまで、左足でクラッチペダルをずっと踏んでいなければならない。誰もが経験したことがあると思うが、ずっとクラッチを踏んでいると左足が疲れてプルプルと痙攣してきてしまう。こんな運転を2時間も続けたら誰だって私と同じことになると思う。

 

私もそうだが、普段からMTに乗りなれている人は絶対にこんな糞みたいな運転は教えない。信号待ちの時はギヤをニュートラルに入れ、クラッチペダルから足を離す。クラッチペダルは意味もなく踏み続けるとレリーズが焼き付いて故障の元になるからである。ドライバーにも車にも負担を掛けるような運転操作を教えるなんて本当に腹立たしい。要は教官にとって都合が良いことを教えているのだからどうしようもない。

 

そして私はその日、MTに乗ることを諦めたのであった。

 

MTへの慕情

それから無事に免許を取り、ATのシルビアに乗っていた。見た目はいかにもスポーツカーでカッコイイと思ったが、乗ってみるとずいぶんと普通の車だった。やけに低い視界と着座位置を除いて刺激的なものは何もなかった。

 

つまらなかった。

 

本当につまらなかった。なんでこんな普通の車を選んでしまったんだろうと心底後悔していた。あのときMTを諦めていなければ…

 

それからというもの、私は教習所で乗ったタクシーみたいなMT車の運転する面白さを恋しく思い返していた。そしてこうも思った。「今俺が乗ってるシルビアがMTになれば、絶対面白いはず!」

 

そう思うと居ても立っても居られなかった。私はATをMT化するのにいくら掛かるのかネットで必死に調べた。調べてみると50万円〜などあまりにも高く、大学生になったばかりの若者に払える額のお金ではなかった。

 

とりあえず親父に相談してみた。
「シルビアをATからMTに載せ替えたいんだけど。」

 

すると親父は
「ほら言ったろ、最初からMTにしとけと言ったのに。」
私は親父のMTにしとけという意見を聞かず、ATを選んで後悔していた。

 

その後、親父は続けて、
「知り合いにそういう改造が得意な人がいるから、その人に相談してみたら?」
とアドバイスをくれた。私はすぐにその人に連絡し、MT化したい旨を伝えた。
すると、2つ返事でOKしてもらい、なんと費用も18.5万円で良いと言うのだ!

 

私はすぐにお願いし、18.5万円を親父に借りてMT化してもらった。その費用は長期休暇のタイミングで派遣社員として働き、返していった。途中から踏み倒したが。(笑)

 

面白くて仕方ない

MT載せ替えが完了し、いざその日になると高まる気持ちを抑えることができなかった。ワクワクしながら代車を運転し、集合場所にたどり着くとシルビアはそこにあった。当然だが、遠くから眺めてみても何も変わっていなかった。さらに近づき、中を覗いてみると、シフトノブがAT用からMT用になっていて、アクセルとブレーキの2つしかなかったペダル類も、アクセル、ブレーキ、クラッチの3ペダルに変身していた。

 

簡単に説明を受け、MTになったシルビアを運転してみた。
これがもう面白くて仕方ない。予想より遥かに面白かった。
教習所で乗ったMTのタクシーとは全く違ってとてもスポーティーな乗り味だった。

 

余りの面白さに、家の周りを意味もなく走り回った。あのときの興奮は今でも昨日のことのように思い出すことができる。それぐらい、MT化は私にとって革命だった。MT化によって私のシルビアはスポーツカーに生まれ変わったのである。


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