なぜGTウイングは「ハイマウント」で「幅広サイズ」なほどダウンフォースを稼げるのか
出典:ARVOU
とにかく大きなGTウイング=速さのため
サーキットでの速さを競う「チューニングカー」の外見でとにかく目立つのは、「大きなGTウイング」だろう。
およそ車幅と同じか、それ以上に大きな幅広サイズで、高さもルーフより高いものもザラである。
もちろん、こんなに大きなGTウイングは車検不適合で、「サーキット専用」である。
だが、どうしてGTウイングをハイマウントにして幅広サイズにすると、より多くのダウンフォースを稼ぐことができるのか知っておくことは、今後役立つ知識になるはずなので、テーマに扱うことにした。
GTウイングを付けると、なぜダウンフォースが発生するのか
出典:ASM
ダウンフォースは圧力差と作用反作用の法則の結果
GTウイングを装着するとダウンフォースが発生するということは、車好きなら常識と言っても過言ではないほど知られていることである。
では、なぜGTウイングを装着するとダウンフォースが発生するのだろうか?
当たり前だが、GTウイングは「空気の流れ」があるからこそ意味のある空力パーツである。
よってスピードレンジが高くなればなるほど、GTウイングによるダウンフォースはより一層効果を発揮する。
GTウイングは「流線曲率の定理」でダウンフォースを発生させる
流線曲率の定理とは、流体が凸な局面に沿って曲がろうとする「コアンダ効果」と、曲面の内側と外側の流速差によって生じる「圧力差」によるものである。
コアンダ効果によって空気の流れは上向きに変化し、その反作用によってGTウイングは下向きの力(ダウンフォース)を受ける。
これがダウンフォースが発生するメカニズムである。
更に流れの速いGTウイング下面はベルヌーイの定理より圧力が下がり、反対に流れの遅いGTウイング上面は圧力が上がる。
つまりGTウイング下面が負圧になり、GTウイング上面が正圧になる。
その結果、翼の上下の圧力差によってGTウイングはダウンフォースを発生させるのである。
大雑把に言うと、GTウイングをひっくり返したのが飛行機の翼であり、スポーツカーのGTウイングを逆向きに装着すれば空を飛べるかもしれない。(笑)
立て過ぎ厳禁!「GTウイング」は使い方次第でデチューンになる
ダウンフォースの70%はGTウイング両端のわずか30%の範囲で発生する
出典:トップフューエル
「GTウイング全面でダウンフォースを発生させる」は幻想?
私自身とても意外だったのが「GTウイングが発生させるダウンフォースのうちの70%は、GTウイングの端っこの30%で発生する」ということである。
誰もが信じて疑わなかった、GTウイングを装着すれば、GTウイング全面で同じようにダウンフォースを発生させるというのは間違っているということである。
なぜこのようにダウンフォースを発生させる場所は偏っているのだろうか?
それは、車体に取り付けるがゆえに起きるのである。
車体に取り付けず、GTウイング単体で風洞実験をすれば、GTウイング全体にダウンフォースを発生させることができるだろう。
しかし、車体に取り付けることでGTウイングに当たる空気の流れが異なってしまうのである。
「スワンネック」が従来型GTウイングより強力なダウンフォースを発生させる理由
GTウイング中央部と両端付近の役割は実は異なる
勘の良い人はもう気付いたかもしれないが、車にはルーフ(屋根)がある。
GTウイングに当たる空気は、GTウイングに当たる前にフロントガラスに当たり、ルーフを通り、ルーフから吹き降ろしてから、GTウイングにたどり着くのである。
空気抵抗と密接な関りがある「境界層剥離」、その原理とメカニズムに迫る!で書いたが、空気は急激な形状変化には追従することができない。
これはスピードレンジが高くなればなるほど顕著になる。
つまり、サーキット等でダウンフォースが欲しい高速域になるほど、ルーフを通過した空気は剥離してしまい、
GTウイングに綺麗に風が当たらなくなってしまうことで、ダウンフォースは思いのほか少なくなってしまう。
それに比べてGTウイング両端はルーフがなく、車体横を綺麗に流れてきた空気が当たるため、狙い通りのダウンフォースを発生させることができるというわけである。
これがGTウイングで発生するダウンフォースの70%に達することを考えると、いかに中央部が仕事していないかがよくわかるだろう。
「ダックテール」スポイラーだけが持つ、GTウイングには無い意外な空力効果とは?
だから、GTウイングは「ハイマウント」で「幅広サイズ」が速い
出典:J'S RACING
ハイマウントで幅広サイズにすると、ウイング全面でダウンフォースを発生させられる
つまり、GTウイングの高さをハイマウントにしてしまえば、ルーフから遠ざかることで、整流された綺麗な空気が速い速度でGTウイングにぶち当たる。
そうすればローマウントでは仕事をしなかったGTウイング中央部も、突然パワーを発揮するようになる。
同様に、GTウイングを1400mmよりも1600、1700mmと幅広サイズにする方が、車体横の綺麗に整流された空気をガンガン浴びることができ、
より効果的にダウンフォースを発生させることができるというわけである。
なぜ「ガーニーフラップ」を付けるとダウンフォースを稼げるのか
よって、GTウイングをもっと効かせたい場合、ウイングステーを延長してルーフと同じか、それ以上の高さにすることで効率的にダウンフォースを発生させることができるし、
もしもGTウイングを選ぶ際は幅広サイズにすることで、ダウンフォースを強烈に発生させることができる。
今回は「なぜGTウイングは「ハイマウント」で「幅広サイズ」なほどダウンフォースを稼げるのか」について書いたが、参考になれば幸いである。
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